宇宙ニュース

H3ロケット7号機、10/26再設定!日本の次世代機、宇宙への再挑戦

2025年10月、JAXA(宇宙航空研究開発機構)は、H3ロケット7号機(H3-F7)の打上げ予定日を、当初の10月21日から10月26日(日)に再設定すると発表しました。

「なんだ、また延期か」

そう思った方もいるかもしれません。しかし、今回の打上げは、単なる「ロケット打上げ」ではありません。これは、試験機1号機の悪夢のような失敗を乗り越え、2号機で復活を遂げたH3が、「日本の宇宙開発の未来」そのものを宇宙へ運ぶ、極めて重要なミッションです。

この記事は、単なるニュース速報ではありません。

なぜH3は「失敗」を経験したのか? なぜ今回の「再設定」は、むしろポジティブなニュースなのか? そして、7号機が運ぶ「荷物」が、いかに日本の未来(特に月探査)にとって決定的な意味を持つのか——。

宇宙を愛する運営者(私)の視点から、この打上げが持つ「本当の重み」を徹底的に解説します。


H3ロケットとは何か? 苦難の歴史と「2号機成功」が持つ意味

H3ロケットとは何か?

もし一言で表現するなら、それは「日本の宇宙輸送の未来をすべて背負い、壮絶な失敗(ドラマ)を乗り越えた主人公」です。

今回の7号機の打上げを真に理解するには、このロケットが「なぜ生まれ」「何に苦しみ」「どう復活したか」という物語を知る必要があります。このセクションでは、H3の壮絶な開発経緯を、私自身の思いも込めて時系列で紐解いていきます。

H3が目指した「宇宙の日常化」

H3は、現在日本の主力ロケットである「H-IIA」の後継機として開発されました。

「え? H-IIAは成功率98%を超える世界トップクラスのロケットなのに、なぜ変える必要が?」

そう思う方も多いでしょう。H-IIAはまさに日本の誇るべき「名機」です。しかし、彼には大きな課題がありました。それは「高コスト」であること。

H-IIAの打上げ費用は1回あたり約100億円。これでは、SpaceXなどが1回数十億円規模で衛星を打ち上げる現代の宇宙ビジネス市場では、価格競争力がありません。

そこでH3は、H-IIAの高い信頼性を引き継ぎつつ、全く新しい設計思想を取り入れました。

  1. 圧倒的な低コスト化:目標はH-IIAの約半額、約50億円。自動車のように民生品(一般の工業製品)を多用し、製造プロセスを徹底的に簡素化。
  2. 高頻度な打上げ:世界の旺盛な衛星打上げ需要に応えるため、準備期間を短縮し、年間6回程度の打上げを目指す。
  3. 柔軟な対応力:搭載する衛星の重さや軌道に合わせ、ブースター(SRB-3)の本数を0本、2本、4本と選べるようにしました。

私(運営者)は、このH3のコンセプトこそが、日本の宇宙開発が「特別なイベント」から「日常のインフラ」へと変わるための、最も重要な転換点だと考えています。

「いつでも、安く、確実に宇宙にモノを運べる」。これが実現して初めて、日本は世界の宇宙ビジネスの舞台で、対等に戦うことができるのです。

「魔物」が棲むエンジンと、悪夢のシーケンス

しかし、この「理想のロケット」の実現は、想像を絶する苦難の連続でした。

最大の難関は、新しく開発された1段目のメインエンジン「LE-9」です。ロケット開発の成否はエンジンが握っていると言っても過言ではありません。このLE-9が「魔物」でした。

燃焼試験でタービンに深刻な振動が見つかるなどトラブルが続出。開発は難航し、当初2020年度だった打上げ計画は、2度も延期されることになりました。

そして2023年3月7日。 3年越しで、ついに試験機1号機(TF1)が打上げられました。

私を含め、多くの宇宙ファンが固唾をのんで中継を見守っていました。LE-9エンジンは完璧な燃焼を見せ、第1段ロケットは正常に分離。誰もが成功を確信した、その瞬間でした。

【H3試験機1号機 失敗のシーケンス】

  • 第1段分離後:第2段エンジンに着火信号が送られる。
  • 異常検知:しかし、管制室に「第2段エンジン、着火せず」の無情なアナウンスが流れる。
  • ミッション失敗:ロケットは衛星「だいち3号」(ALOS-3)を軌道に乗せる速度を得られず、宇宙空間を漂流。
  • 指令破壊:打上げから約14分後。ミッション達成不可能と判断され、地上から「指令破壊」の信号が送信された。

H3ロケット1号機は、貴重な衛星もろとも、フィリピン沖の海に消えました。 あの管制室の沈痛な空気と、JAXA職員の涙は今も忘れられません。日本の宇宙開発にとって、あまりにも痛く、重い失敗でした。

失敗の本質と、「完璧」な再挑戦

なぜ失敗したのか? 原因は、第2段エンジンの電源系統で発生した「過電流」でした。電気がショートし、エンジンに着火信号が送れなくなったのです。

しかし、問題の本質はもっと深いところにありました。 JAXAの報告書は、失敗の背景に「過去の実績の過信」があったと指摘しています。

つまり、「この部品は過去のロケットでも使っていて問題なかったから、今回も大丈夫だろう」という慢心が生まれ、詳細な検査や対策が不足していたのです。これは技術的な問題であると同時に、組織的な問題でもありました。ロケット開発に「絶対」はなく、「これまで大丈夫」が通用しないことを、私たちは改めて痛感させられました。

JAXAは、この失敗を徹底的に洗い出しました。 過電流が発生しうる可能性を3つのシナリオに絞り込み、「どれが真犯人かわからないなら、全部潰す」という執念で対策を施したのです。

(3つのシナリオとは、部品そのもののショート、設計上の想定漏れによる絶縁破壊、製造時の不具合など、考えうる全ての可能性のことです)

そして、悪夢から約1年後の2024年2月17日。 雪辱を期す試験機2号機(TF2)の打上げ日を迎えました。

この日の打上げは、いつもとは全く違う緊張感に包まれていました。もし、これでも飛べなければ、日本の宇宙開発は本当に未来を失ってしまう。

結果は、完璧な成功でした。

第1段分離、第2段着火、そしてダミー衛星と小型衛星の分離。すべてが計画通りに進み、管制室は歓喜に包まれました。

この2号機の成功が持つ意味は、単に「ロケットが飛んだ」ことではありません。 「1号機の失敗原因の特定と、その対策が、完全に正しかった」 これを世界に証明した、何物にも代えがたい成功だったのです。

「失敗から学び、より強くなって帰ってきた」。 この壮絶な「失敗と再生」のドラマこそが、私たちがH3ロケットに強く感情移入し、今回の7号機に大きな期待を寄せる理由の核心です。

このTF2の成功を皮切りに、H3は一気に「実運用」へと加速します。 3号機では初の「実用衛星」である「だいち4号」を軌道に乗せ、続く4号機、5号機、さらにはブースター無しの「H3-30形態」という新しい姿の6号機まで、着実に成功を積み重ねてきました。

この確実なステップアップがあるからこそ、7号機は「もう試験ではない、本番のミッション」として、極めて重要な意味を持っているのです。

こうして劇的な復活を遂げたH3。だからこそ、今回の7号機の「再設定」というニュースに、ファンは敏感に反応しています。なぜ打上げは延期されるのか? そこには、TF1の失敗から得た「重い教訓」が活きているのです。


なぜ打上げは「再設定」されたのか? ロケット開発、知られざる精密作業の舞台裏

今回の「10月26日に再設定」というニュース。これは決してネガティブなものではありません。 私(運営者)は、これこそが「TF1の失敗から学んだ教訓が、正しく活かされている証拠」だと考えています。

ロケット開発という世界では、「100%の成功」以外はすべて「完全な失敗」を意味します。 宇宙空間では、簡単な修理もできません。打上げボタンを押す前に、地上ですべての不安要素をゼロにする必要があるのです。

では、なぜ打上げは「延期(再設定)」されるのでしょうか。主な理由は以下の通りです。

  1. 天候要因(最重要)
    • :ロケット打上げの最大の敵です。ロケットが雲を突き抜ける際、機体そのものが雷を誘発する「誘雷」を引き起こす危険があります。
    • 上空の風:地上は無風でも、上空数十キロではジェット気流が吹いています。この風が強すぎると、ロケットが設計通りの軌道を飛べなくなるため、打ち上げられません。
    • その他、強すぎる雨や地上の強風も延期理由となります。
  2. 機体要因
    • H3ロケットには膨大な数のセンサーが搭載されています。その「たった1つ」でも、規定値からわずかでも外れた数値を検知すれば、カウントダウンは停止されます。
    • 推進薬(液体水素・液体酸素)の充填プロセスや、無数のバルブの動作チェックで、ほんの僅かな異常も許されません。
  3. 地上設備・周辺要因
    • ロケットを追跡するレーダーの不調や、警戒区域内への船舶・航空機の侵入も、延期の理由となります。

なぜこれが「教訓」なのか?

TF1の失敗の背景には「過去の実績の過信」がありました。

「たぶん大丈夫だろう」という油断が、あの悪夢を引き起こしたのです。

だからこそ、今のJAXAとH3チームは、「疑わしきは、絶対に飛ばさない」という姿勢を徹底しています。

今回の「再設定」は、どこかに不具合があったというよりも、「100%の成功」を期すために、天候や機体のコンディションが完璧に揃う「ベストな日」として10月26日を選び直した、と捉えるべきです。これは、TF1の教訓を血肉とした、技術者たちの「誠実さ」と「慎重さ」の表れなのです。

完璧な安全を追求し、10月26日に再設定された7号機。では、技術者たちがこれほど慎重に、そして確実に宇宙へ届けようとしている「最重要ペイロード」とは、一体何なのでしょうか。


7号機の「最重要任務」とは? 宇宙へ運ぶ“未来の種”(搭載ペイロード解説)

H3ロケット7号機が運ぶもの。それは、「新型宇宙ステーション補給機1号機」(HTV-X1)です。

「ああ、ISS(国際宇宙ステーション)への補給船か」 そう思った方は、このミッションの重要性の半分しか見ていません。

確かに、HTV-X1の最初の任務は、ISSへの物資補給です。これは、これまで日本の宇宙開発を支えてきた「こうのとり」(HTV)の後継機としてのデビュー戦です。

しかし、HTV-X1の真の姿はそこにありません。

月への「補給ルート」を拓く、日本の切り札

HTV-X1が「未来の種」と呼ばれる最大の理由。それは、この機体が「月周回有人拠点 Gateway(ゲートウェイ)」への物資補給を担うために設計された、日本の「切り札」だからです。

「ゲートウェイ」とは、アメリカ主導の国際月探査「アルテミス計画」において、人類が月に降り立つための中継基地となる、月を周回する宇宙ステーションです。

日本は、このゲートウェイ計画の主要パートナー国です。そして、日本が任された最も重要な役割の一つが、「ゲートウェイへの物資補給」なのです。

HTV-X1は、ISSへの補給ミッションでその性能を実証した後、将来的には地球から「月」までの長距離航行を行い、ゲートウェイにドッキングする初の機体となります。

私(運営者)は、このHTV-X1こそが、H3ロケットが存在する最大の意義の一つだと考えています。

日本の悲願である「日本人宇宙飛行士の月面着陸」を実現するためには、このゲートウェイ計画への貢献が不可欠です。HTV-X1は、その貢献を形にするための「約束手形」であり、H3ロケットは、その手形を確実に宇宙へ届けるための「唯一の輸送手段」なのです。

つまり、H3ロケット7号機は、単にISSへの荷物を運ぶのではありません。 日本の「月探査の未来」そのものを、その先端に乗せて打ち上げられるのです。

ISS、そして未来の月へ。HTV-X1という日本の未来を乗せたH3ロケット。このミッションの成功は、日本の宇宙ビジネスと国際協力に、どのような未来をもたらすのでしょうか。


まとめ:H3が拓く日本の宇宙ビジネスと国際協力(アルテミス計画)の未来

ここまで、H3ロケット7号機の打上げが、単なるニュースではない理由を解説してきました。

  1. 壮絶なドラマ:H3は、試験機1号機の「失敗」という重い十字架を背負い、その教訓をバネに2号機で「復活」を遂げたロケットであること。
  2. 誠実な再設定:「再設定」は、TF1の教訓を活かした「100%の成功」を目指す、慎重で誠実なプロセスであること。
  3. 未来への切符:7号機が運ぶ「HTV-X1」は、日本の月探査(アルテミス計画)の未来を切り拓く、戦略的に最も重要なペイロードであること。

10月26日の打上げ成功がもたらす「2つの未来」

このミッションが成功した時、日本は2つの大きな未来を手にします。

一つは、「アルテミス計画における日本の地位確立」です。 H3でHTV-X1を打ち上げられることを証明して初めて、日本は「ゲートウェイ計画」の主要パートナーとしての「約束」を果たしたことになります。これは、将来の日本人宇宙飛行士の月面着陸に向けた、最も重要なステップです。

もう一つは、「宇宙ビジネス市場への本格参入」です。 SpaceXと戦うため、日本には「安くて信頼できるロケット」が不可欠です。H3(目標約50億円)が、HTV-X1のような大型で重要な衛星を確実に打ち上げたという「実績(フライトヘリテージ)」こそが、世界中の顧客から商業打上げを受注するための最強の営業ツールとなります。

あなたと、この「歴史的瞬間」を

私(運営者)にとって、10月26日の打上げは、H3が「開発」の時代を終え、いよいよ「実運用」という本番の舞台に立つ、卒業式のようなものだと感じています。

この歴史的な瞬間を、ぜひ一緒に見届けましょう。 当日は、JAXAの公式YouTubeチャンネルで、打上げの様子が詳細な解説付きでライブ中継されます。

あなたはこのH3ロケット7号機に、何を期待しますか?
このミッションのどこに、一番ワクワクしますか?

ぜひ、コメント欄やSNSで、あなたの「声」を聞かせてください。


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